『NPB以外の選択肢 逆境に生きる野球人たち』

                          

宮寺匡広著 彩流社 2017年

『NPB以外の選択肢─逆境に生きる野球人たち』という本を目にし、サブタイトルの「逆境に生きる」に惹かれる。読もうかどうしようか迷って、アマゾンレビューを見てみた。

「読む人が読んだら、勇気をもらえる本」
「『野球』の閉鎖性」
「野球に関心のない人にもおすすめ! 生き方を迷っている時、ヒントをくれます」

と、どれも星五つで、おもしろそう。ストレートに信用できないかもしれないが、でも、読んでみたくなるではないか。

 

挑戦を続ける若者たち

 私自身は野球にそれほど関心があるわけではないが、家族関係にダメージを抱えて子ども時代を過ごしたなかで、唯一とも言える心がなごむ思い出は、父親とゴロンと横になって、テレビでナイター中継を観て過ごした時間。そのためか、野球には潜在的にほのぼの感をかきたてられるところがある。

 最後のレビューには、

「8人の野球人の生き様を通して(正確には著者を含めて9人)、私たちに「生きる」ということの意味を考えさせてくれる本だと感じた」

とある。

 最初のレビューには、  

「どのスポーツでもそうかもしれないが、その道で成功し、食べていける人はほんの一握り。それでも諦めきれずに挑戦を続ける若者たちがいる。

 著者もその一人で、それ故に、切実な思いで、「この道を選択したことで生じる苦悩や不安。野球に携わり続けることを選んだ人たちは何を思い、どう過ごしてきたのか」をテーマに、8人にインタビューし、本にまとめた」

と、本の意図が説明してある。

 

 

各章の紹介

 「自分が高校野球やってた当時、アメリカ行ったことで高野連にすごい怒られたんだよ。でも、就活のつもりで行ってるわけでしょ。別に、高野連が俺の人生のケツ拭いてくれるわけではないじゃん」と、反骨精神に溢れ、世界を股にかけ活躍する田久保賢植

 身体能力抜群のアスリート型で、文武両道を求め、慶應高校、慶應大学と野球部で活躍した春山凌。4年生秋の早慶戦でヒットを放ち、有終の美を飾る。人と違っていても、自身の考えを追究すべく、安定した就職の道を捨て、アメリカ野球への挑戦を選ぶ。

 自分の思いに忠実に、30歳を越えてなおプロに挑む井野口祐介。野球をやる基準は本当に好きかどうか。ストイックに、真摯に野球にかける生き様。日米の独立リーグで活躍し、現横浜DeNA監督のアレックス・ラミレスと一時期、群馬ダイヤモンドペガサスで選手として共に過ごす。

 社会人の名刺交換のような高校野球経験の確認。その経験が欠落した野球選手。流れに逆らう生き方を選んでしまうという生き方。NOMOベースボールクラブ初代メンバー、日米独立リーグでの活躍。高校野球未経験のコンプレックスを強みに変えていく蛇澤敦

 高校野球スタート時点でのゴタゴタ、大学中退、肘の手術。独立リーグでの活躍とその球団自体の休部。それでも前向きに野球に関わり続けた結果、若くして社会人企業チームをゼロからつくりあげる。ときに野球に人生を翻弄されながらも、野球と共に生きていく飯田祥多

 メジャーリーグで初めてアフリカ系アメリカ人としてプレーしたジャッキー・ロビンソンへの憧れ、ひいては「アメリカ野球」への憧れ。そこから指導者への道を切り開いていく。自分が歩んだ道をたどる選手のために、より多くの選択肢を残したい。日本人初のアメリカ独立リーグ監督の三好貴士

 サンフランシスコ・ジャイアンツのブルペンキャッチャーで、アスレティックトレーナーの植松泰良。自分に求められる役割を渾身的にこなすだけでなく、チャンスとみれば、出入り禁止の監督室で猛アピールする実行力、意志の強さ。選手を陰から支えるプロフェッショナル。

 メジャー経験者・マック鈴木の目を通してみる挑戦者たち。世界を漂流した男が向けるもがく選手たちへの眼差し。

 「果たしていま海外を目指してる選手たちのなかに、わざわざそこを通らなあかんかっていったら、通らんでええんちゃうっていう人のほうが多いと思う。
 でもね、通ったことによって、普通の人じゃ経験できない経験ができるのは確か。メジャーの景色を見て、やっぱあの景色っていいなって思うから、またトリプルAに落とされても、長時間(移動の)バスに乗らなあかんくても、あそこにまた戻りたい、あの景色を見たいっていう気持ちやったから挑戦し続けた。そういう景色じゃないけども、似たようなものを追いかけてると思うねん」

 「そのあきらめきれない気持ちを、しっかりサポートできるようにしたいと思うよ。でもそれはね、野球人やねん。野球人の後輩が困ってたら、心配するのが普通やろ。野球でしか、つながってないねんから」

 野球愛にあふれていると思う。

 

日本野球界の閉鎖性とアメリカ野球の魅力

 8人の足跡は、『野球崩壊』でも触れられていた、日本野球界の閉鎖性、排他性を浮き彫りにし、「野球というスポーツの狭量」を抉りだしている。

 そして、アメリカ野球の本質が、無条件に野球を楽しむことであると、8人それぞれが、それぞれの経験を通して、膚で感じとっている。翻って、日本の野球は勝利至上主義で、「軍隊とか、どこか武士道的な要素が入ってくる」とマック鈴木は言う。

 

著者の問題意識と挑戦することの意味

 著者の問題意識は、挑戦することの意味、挑戦の先にあるものにも向けられている。

 「安定した道を選ぶことに最大の価値を置く日本社会において、こうした道を選ぶことは、社会学者・山田昌弘の『希望格差社会』(ちくま文庫)によると、「不良債権」といわれ、「自分探し」(『自分探しが止まらない』速水健朗著、ソフトバンク新書)、「ノマド・リーガー」(『もう一つのプロ野球』石原豊一著、白水社)と揶揄されることもある」

と、皮相な世間の目を紹介する。そして、

「社会的な成功や安定といった価値基準からは決して計ることはできない」

「無謀にも思える希望にチャレンジしていく姿勢こそが、将来の糧となり、また新しい価値を生み、人生全体を充実させてくれるものになるかもしれない。たくさんの挫折を味わいながらもなお、野球と関わり続けてきたがゆえに、道が定まることもあるのだから」

「それをしたという事実は、自分のなかに永遠に刻み込まれる。そのこと自体に価値があるのだ。その無償の行為にみな、自分を懸けているように感じられた」

と、結んでいる。

 

インタビュー記事の醍醐味

 昨今、インタビュー記事はその内容を編集者が敬体(ですます調)に直すらしい。編集の入門書でもそのように指導しているのを見かける。それで、世に溢れているインタビュー記事はどれも話者が似たようなタイプに見える。丁寧で、嫌みがなく、良い人というイメージ。

 この本で、久々にインタビュー記事の醍醐味を満喫した。8人の個性が際立っている。なかでもマック鈴木氏の語りは格別だった。著者自身のストーリーも含めて、読み応えのある本だった。

              

 

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