「冷たい熱帯魚」園子温監督 2010年
「凶悪」白石和彌監督 2013年
「冷たい熱帯魚」は、1993年に起こった埼玉愛犬家連続殺人事件をベースに、舞台を熱帯魚店に変えて作られた映画。ホラーとウィキペディアにあるが、?だ。確かにおどろおどろしいが、社会を、現実を踏まえている。
事件の文字通りの共犯者、山崎永幸によって書かれた『共犯者』(新潮社 1999年)によると、金目当てとトラブルで、犬の殺処分用の硝酸ストリキニーネで4人を毒殺。山崎方の風呂場でバラバラに解体、肉は小さく刻む。肉などは川に捨て、骨はドラム缶で焼却。「遺体なき殺人」と呼ばれた。
主犯の関根は「ボディを透明にする」と言っていた。「死体がでなければ、ただの行方不明」とも言っていた。「これまで大勢殺ってきたけど、最初は俺も怖かった。膝ががくがくして立ってさえいられなかったもんだが、要は慣れの問題だ。何でもそうだが、一番大事なのは経験を積むことだ」と、ふつうの仕事の手順のように話している。
比較的忠実に映画化されているが、遺体の解体場所となる廃教会に現実感がなく、ホラーと説明される故かもしれない。死体の解体ショーとでもいうべき映像。二人の踊り出しそうなところが笑えたが、でも、ゲー、スゲーとも思った。万人向けの映画ではない。解体ショーの女性(関根の妻)がよかった。酷薄だけれど、自分をもっていない、強い相手に従属する性癖。そして狂っているところ。
ここはフィクションだとばかり思っていたが、『共犯者』の中で、それに近い描写があり、驚いた。
「凶悪」も、同じくノンフィクションをベースにした映画。
「上申書殺人事件」と呼ばれる現実の事件を追った、『凶悪─ある死刑囚の告発』(「新潮45」編集部編 2007年)を原作としている。この事件を担当した記者は、カポーティの『冷血』に喩えられたという。
死刑の判決を受け、最高裁に上告している元ヤクザが、「先生」と呼ばれる不動産ブローカーの命を金に換える保険金殺人事件を告発する。ここでも、人間はこういうこともできるのかというような暴力描写の連続。こういう場面を受け付けない人もいるだろう。一見平然と見ているが、内心自分がこういう場面に遭遇したらと思うと、怖くて震える。
ピエール・瀧のまさしくヤクザという姿、雰囲気と、最後の漂白されたような邪念のなさと偽善かもというすれすれの演技。先生役のリリー・フランキーの軽薄な極悪さと、家では良識的なやさしい父親のイメージ。二人の演技に圧倒される。
現実の世界の「名前のある毒」。錬金術のような、金のための殺人。昔からよくある話。
そして、暴力。これもまた、よくある話。
しかし、圧倒的な凶暴な暴力を振るえる人間がどこにでもいるとは思えない。こういう人格はどうやって育ってくるのだろう。他者に対する共感の欠如の、行きつく先はここだろうか。
戦争という場面を考えると、日常では普通の人間が凶暴な暴力を発揮する。その中で精神を病む人も存在する。暴力に適応できるのは、慣れだけの問題ではないだろう。
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