犯罪・罪

『八日目の蟬』

 妻子ある人の子を身ごもり中絶した希和子は、男の赤ん坊を連れ出し、4年間の逃亡生活を始める。女たちの共同生活の場でもあったエンジェルホームで2年半過ごし、それから小豆島にわたる。海と、空と、雲と、光と、木と、花とに囲まれたそこでの生活は夢のようだったが、突然終わりを告げる。成長した子は同じように妻子ある人の子を身ごもる。

『ファーストラヴ』

女子大生による父親殺しというセンセーショナルな事件。父親は高名な画家。なぜ殺されたのか? その家庭では何が起きていたのか? 親との関係で心を病む、生きづらさを抱える、何かしら歪んだ世界を生きざるをえない人生を押しつけられる、この理不尽さに苛立ちと怒りを募らせる。こういう世界をミステリー風にうまく描ききったなと思った。
映画

映画「ドラゴン・タトゥーの女」

40年前の少女失踪事件の謎を現場の孤島で追跡調査するという筋立てに、天才的なハッカー技術をもち、孤独で、暗い翳を抱えて、強くて、非情で、甘さだの優しさだのとは無縁なリスベットが絡み、過去の忌まわしい闇が解明される。
映画

映画「ブレイブ ワン」

すべてを失い、「声だけが肉体から離脱したように街の中をさまよっている」エリカに、マーサーはどうやって立ち直るのかと尋ねる。エリカは、「生まれ変わるの、別人に」と答える。恐怖が自分を見知らぬ誰かに変え、銃を買ったとき、世界との関係が変わる。
映画

映画「冷たい熱帯魚」、「凶悪」

埼玉愛犬家連続殺人事件をベースにした「冷たい熱帯魚」、「ある死刑囚の告発」を元にした「凶悪」。両者に共通するのは、金のための殺人と過剰な暴力。ある意味ではわかりやすい「名前のある毒」ともいえる。しかし、暴力の過剰さが増すごとに、現実から逸脱していくような不気味さが立ち現れる。

「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」

悪意と邪悪さがきわまったような物語。13歳の少女がそこまでできるのか。不自然さはなく、一気に読ませる。シングルマザーの孤独と不安定さ。メディア報道の横暴さと、それをたやすく信じ、一緒になって追いつめる普通と呼ばれる人々。現代の問題にも切り込む衝撃作。

『名もなき毒』

無差別殺人事件と、歪んだ自意識を持つ人間が周りを巻きこんで起こす事件が平行して描かれる。両者に共通してあるのは、激しい怒り。怒りは限界点に達し、外に向けて毒が発せられる。その毒は、結果として、自分自身を苛む毒と、他者を苛む毒に変わる。主人公は、「我々の内にある毒の名前を知りたい」と煩悶する。
映画

映画「その土曜日、7時58分」

シドニー・ルメット監督 アメリカ 2007年  父と子の葛藤。兄弟の葛藤。単純で無邪気な弟。心の歪みで性格を破綻させた兄。(最初から最後まで説明あり。要注意)  土曜日の朝、7時58分に事件は起きる。そこを起点に、時間が前後にさかのぼられる...

『冷血』 IN COLD BLOOD ⑥

カポーティの数寄な生涯を友人、愛人、ライバルが生々しく証言した、聞き書きによる伝記『トルーマン・カポーティ(上、下)』(ジョージ・プリンプトン著)がある。  その中にカポーティ自身の言葉もあり、次のように述べている。  葉や花のある植物を読...

『冷血』 IN COLD BLOOD ⑤

Ⅳ 隅っこ(コーナー)  フィニー郡裁判所の4階の郡拘置所は、保安官住宅と、鋼鉄の扉と短い廊下でへだてられただけだった。保安官住宅には、保安官代理とその妻マイヤー夫妻が住んでいた。  マイヤー夫人は落ちついた、やさしい性質の持ち主で、率直な...