虐待

『大丈夫な人』

社会的に弱い立場にいる人の持つ、もどかしさ、あきらめ、鬱屈感が、悪い状況を打開するのではなく、身を任せ、流されてしまう方向に動いていく。受け身の人間の心の働かせ方が、これでもかと描かれている。

『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』

17歳の少年の祖父母に対する強盗殺人事件。過酷な境遇で育った少年は、母親に支配、コントロールされていた。少年は、社会の、そして何より母親の被害者だった。その母親もまた、被害者だったかもしれない。
映画

映画「異端の鳥」

説明は一切ない。モノクロの映像。普通と言われる人々の苛烈な暴力。どこにでもある。出会う人、出会う人が少年に悪意と邪悪と残虐のかぎりを尽くす。善き人に出会えることはあるのかと、画面を見つめる。

『砕かれた神―ある復員兵の手記』

「敗戦後、天皇は責任をとって自決されると信じていた。少なくとも退位されると」 『砕かれた神』の著者、渡辺清は16歳で海軍に志願し、20歳で敗戦をむかえる。激烈と言えるほどの純粋な天皇崇拝者であった。それが筋金入りの天皇否定論者に変わる。その経緯を辿る。

『戦争は女の顔をしていない』

第二次世界大戦でのソ連の死者は、2000万人。その戦いに、看護師や医師としてだけではなく、兵士としても、100万人を超える女性が従軍した。15歳から30歳だった。40数年後、スヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチはそれらの女性たち、500人以上から戦争体験の話を聞き、『戦争は女の顔をしていない』にまとめた。
映画

映画「ちいさな独裁者」

人間の悪意をあぶりだしていて、それが事実として坦々と描かれていて、とても不快な気分になる。現実にあり得ること、似たようなことはどこでも起こり得る。そのどす黒さと逡巡のなさに耐えきれないのか。小さなヒトラーはどこにでもいる。

『ファーストラヴ』

女子大生による父親殺しというセンセーショナルな事件。父親は高名な画家。なぜ殺されたのか? その家庭では何が起きていたのか? 親との関係で心を病む、生きづらさを抱える、何かしら歪んだ世界を生きざるをえない人生を押しつけられる、この理不尽さに苛立ちと怒りを募らせる。こういう世界をミステリー風にうまく描ききったなと思った。

『愛されなくても別に』

深夜のコンビニで、週6日バイトしている大学生の宮田。殺人犯の父を持つ江永。宮田は江永のところに転がりこんで、女二人の共同生活を始める。宮田も江永も欠落をかかえている。その穴を二人でいることで埋め合える。 「親は選べない。でも捨てることはできる。その勇気がここにある」こういう紹介の文章をみて、読まない選択は私にはない。