映画「告発のとき」

映画

 

  ポール・ハギス監督 アメリカ 2007年

 

 「米国で実際に起きた事件をもとに、イラク戦争の現実を描いた作品」

 2004年11月1日の夜、テネシー州マンローのハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の家にフォート・ラッドの米軍基地から電話がかかってくる。息子のマイクが帰隊していない、無許可離隊だと。ハンクは、マイクはイラクにいると言うと、4日前に帰還したと言われる。ハンクはマイクを探すために、普通では車で2日かかるフォート・ラッドへトラックで向かう。

 まだイラクへ行って間もない頃の、「父さん、助けて。ここから連れ出して」というマイクからの、泣きながらの電話が何度も悪夢として現れる。

 ハンクは警察からも軍からも相手にされない。イラクで共に戦ったマイクの仲間の兵士たち。若い好感の持てる彼らに話を聞く。マイクから連絡があったら、「早く帰ってこい、と伝えて」と言う彼ら。「よっぽどすげえ女に出会ったか」と口走る一人。ハンクはそれらを自然な友情の発露として聞く。

 ベトナム戦争を体験し、軍警察退役という経歴の持ち主ハンクは、その知識を生かして一人で探しはじめる。息子の焼けた携帯をうまく持ち出し、プロに動画ファイルを修復してもらう。バラバラに届く、ノイズの大きい、仲間たちとのイラクでの動画。ハンクは違和感と不安を覚える。

 そんな時、マイクが切り刻まれた焼死体で見つかる。ハンクはシングルマザーの刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)の助けを得つつ、息子の死の真相究明をめざす。

 犯人だと思われたメキシコ系の同僚兵士に手ひどい暴力をあびせるハンク。しかし、現実は驚くべき展開を見せる。最後のときを一緒に過ごした3人の軍隊仲間の犯行。切り刻んだボニーは自殺し、ペニングは自分が殺したと淡々と真実を語る。

 ハンクは動画の一つについて、捕虜を虐待しているのではないかと尋ねる。ペニングは、捕虜の虐待は面白かった、虐待を喜んでやっていたのはマイク、現実逃避だったのだろうと語る。別の場面で、ハンクは、「(マイクは)いい兵士だったか」と問い、ペニングは本当に誠実に「最高の兵士でした。軍を愛してました」と答え、辛そうな顔をする。

 行為とたたずまいの落差。イラクでは一体何が起こっていたのかと、見る者に暗い戦慄を起こさせる。マイクの「父さん、助けて」という声がいつまでも心に張りつく。

 仲間を、闘うことを、誇りに思っていたハンクは、少なくとも自分が信じてきた世界とは違う世界が、イラクで戦う人間を蔽いつくしていることに呆然とする。(ベトナム戦争でもイラクと似たような状況はあったと思うが、ハンクの中では美化されている)

 ハンクの妻ジョーン(スーザン・サランドン)もよかった。二人の息子を戦争に奪われた母親の悲しさ、切なさ、理不尽さが、抑えた怒りと絶望とともに体にまとわりついているようだった。

 

 イラクの若い兵士はよくデジカメで撮影していたと、戦場カメラマンの渡部陽一は書いている。「観光客と変わらない感覚をもった“普通でまとも”ないまどきの若者たち」が、「パトロールと称した“死の行軍”や安全であるはずのキャンプ地の中に撃ち込まれる砲弾で命を落としていった。目の前であっけなく死んでいく姿を見続けた彼らは、次は自分の番だと恐怖にふるえていた」。そして、「殺される前に相手を殺すこと。常にこちらから攻撃をしかけること、という生き残る為の手段を学んでいった」と。

 20年近く前の映画だが、つい昨日のように思われたりする。ポール・ハギス、「クラッシュ」の監督。「ミリオンダラー・ベビー」「父親たちの星条旗」の脚本家。筋金入りの社会派。硬派のストーリーのなかに味わいがあって、とても好きだ。

 

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました