映画「8月の家族たち」

映画

 

                        

 

 ジョン・ウェルズ監督 アメリカ 2013年

 

 最初見たときは、見終わった後、しばらく腰を上げられないような、ひたすら重たくのしかかるような映画だった。
 映画評(稲垣都々世)に、「こんな恐ろしい家族の映画を見たのは初めてだ。~きっと、見る人の家庭環境によって印象が変わる映画だろう。幸せな家庭生活を送っている人は、ホラーとして楽しめるかも」とあった。こういう家族、こういう姉妹の関係はありふれているとは言えないが、自らに照らしても、思っている以上に存在するのだろうと思った。

 

 年老いた夫ベバリー(サム・シェパード)は、ある日突然失踪し、湖で遺体で発見される。妻バイオレット(メリル・ストリープ)は、口腔癌で薬の多用から薬物中毒に陥っている。すさまじい毒舌家で、辛辣で、意地悪い言葉を容赦なく相手にぶつける。

 それぞれの場所から子どもたち三姉妹が帰ってくる。三姉妹の対応が個性を際立たせている。

 長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)は、浮気した夫ビル(ユアン・マクレガー)と別居中で、思春期の娘ジーン(アビゲイル・ブレスリン)に手を焼いているが、三人で帰ってくる。バーバラは、母親に正面からまっすぐに対峙し、母親そっくりな容赦のなさで、互いに体を張って渡りあう。周りは二人とも独善的だと思っている。

 次女アイビー(ジュリアン・ニコルソン)は、近くに住んで両親の面倒をみていた。母親は、「猫背で、化粧っけのないレズビアンか」と罵った。姉のようなストレートな強さはなく、目立たず、ひっそりと立っている。いとこのリトル・チャールズ(ベネディクト・カンバーバッチ)と密かに付き合っている。

 三女カレン(ジュリエット・ルイス)は、自由奔放にふるまっているが、確固たる自分が存在しない、男なしではいられない、誰かに依存しないではいられない、そんな不安定な、いたいたしさがにじみ出ている。婚約者だといういかがわしそうな男スティ-ブ(ダーモット・マローニー)と、葬儀の場にまっ赤なオープンカーで乗りつける。

 葬儀には、バイオレットの妹マティ・フェイ(マーゴ・マーティンデイル)と夫チャールズ(クリス・クーパー)も集う。息子のリトル・チャールズは葬儀に間に合わなかった。

 葬儀の後、一堂は食卓を囲む。真実を言えばもっと楽になるという信念をもっているバイオレットの毒舌が険悪な雰囲気をもたらす。薬のせいだと、バーバラは母親から薬を奪おうととっくみあいになる。

 その夜、庭で、三姉妹は久々に語り合う。アイビーはリトル・チャールズと付き合っていると話す。「子どもはできない。子宮頸癌で子宮を摘出したから」と。二人はどうして話してくれなかったのと言う。「ママに知られたら終わり。傷もの商品みたいに言われる」と、アイビー。「せめて私たちだけにでも」と、バーバラ。「兄弟姉妹なんてたまたまのもので、何の意味もない」と、アイビー。そして、チャールズとニューヨークに行くと告げる。母親をどうするか、私は十分面倒をみたから罪悪感はないとも語る。

 三人はそれぞれに複雑な気持ちで立ち上がると、バイオレットも庭にいて、自分の母親のことを話す。「妹をかわいがっていた。クリスマスに、ずっと頼み続けていたブーツらしい箱が飾りつけて置かれていた。ワクワクしながら開けてみると、中には男もので履き古した、泥や犬の糞まみれのブーツが入っていた。母は何日も大笑いしていた。母は心の底から意地悪な女だった。だから私も似たわけよ」と。カレンは言う。「ママは意地悪じゃないわ。ママのこと、愛してる」と。

 次の日、アイビーとリトル・チャールズの関係を知り、マティ・フェイはリトル・チャールズを辛辣に批判する。夫は、「お前たち姉妹はどうしてそんなに他人に対して冷酷なんだ。チャールズをこれ以上侮辱するなら、お前とは別れる」と、妻に言って外に出ていく。
 たまたま聞いてしまったバーバラに、マティ・フェイは、アイビーとリトル・チャールズは異父姉弟だと話す。このことは私とバーバラしか知らない。二人の仲を止めてほしい、と。

 スティーブはジーンにちょっかいを出し、いちゃついているところを見た住み込みの家政婦ジョナ(ミスティ・アッパム)は、スコップでスティーブを殴りつける。騒ぎに、カレン、バーバラ、ビルも駆けつける。バーバラはジーンの頬を平手打ちする。
 カレンは、「世の中は、どっちつかずで曖昧なのよ。みんなその中で生きている、姉さん以外は」と言って、スティーブとフロリダに去って行く。
 次の朝、ジーンとビルも去って行く。

 バーバラとアイビーが残る。バイオレットも含めた三人の食事の席で、アイビーはチャールズと付き合っていること、二人でニューヨークに行って暮らそうと思っていることを告げようとする。バーバラはアイビーの話をしつこくじゃまをする。バイオレットは、二人は付き合えない、異父姉弟だからと暴露する。そして、私が知っていることを夫は知っていた。おそらくチャールズも知っているだろう、と。
 アイビーは出て行く。「どうしても、二人でニューヨークに行く」と言い、涙を流しながら車を運転して。

 バーバラとバイオレット。夫の死のいきさつを話すバイオレット。夫は置き手紙で許しを求めたが、私はモーテルに電話しなかった。二人の全財産の貸金庫を開けるのが先だった。その後、モーテルに電話したが、夫はモーテルを出た後だった。

 バーバラも母親を捨てて出て行く。
 一人取り残されたバイオレットは、ネイティブ・アメリカンで、いつも蔑んでいたジョナにすがりつく。ジョナは温かく包み込む。

 

 豪華絢爛な俳優陣に、惚れ惚れして、見入っていた。
 確かに現代の家族のある面の典型とも言えるような、すさまじい映画だった。出てくる人、出てくる人、皆が病んでいるような、それでいて、どこにでもいるごく普通の人のような。救いはないけれど、自分の場所で、そうやって生きていくしかない。
 バイオレットは、やさしい人間、自分より弱い立場の人間にすがって生きていくだろう。
 バーバラは、自ら選択さえすれば、どこででも生きていけるだろう。
 カレンは、男に依存しながら生きていくだろう。
 アイビーはどうするか。血が繋がっていようが、いまいが、二人で愛し合って生きていけばいいと思うが、チャールズはそれを引き受けることができるか。アイビー自身はどうか。二人にとっては、厳しい選択かもしれない。

 

                   

 

 

 

                                                   

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