ポール・ハギス監督 アメリカ 2005年
クリスマスも間近、ロサンゼルスの深夜の交通事故から始まり、前日にさかのぼって登場人物たちのそれぞれの時間が描かれ、最初の交通事故の場面で終わる。
登場人物たちのエピソードには、他の登場人物が濃淡はあれど関わっていて、パズルのような構造になっている。
ヒスパニック系でスキンヘッドの鍵屋のダニエルと、5歳の娘ララ。
ララが銃声が恐くて眠れないでいる時、ダニエルは妖精からもらった銃弾も何も通さない「透明のマント」を脱いで、ララに着せる。ララは喜んで眠る。
ペルシャ人の雑貨店経営者ファハドと、娘で医者のドリ。
ファハドとドリは、店がしばしば強盗に狙われるので拳銃を買いに行くが、店ではアラブ人と間違えられて侮辱される。ドリは不安を隠せないが、ファハドは拳銃を手に入れる。
ダニエルがドアの鍵を直している。鍵だけではなく、ドア自体を取り換える必要があるとファハドに伝えるが、ファハドは信用しないで、ダニエルを侮辱する。
カージャックをし、その車を売っている若い黒人二人組、アンソニーとピーター。
地方検事の白人リックと、妻の白人ジーン。
二人はアンソニーとピーターにカージャックされ、玄関ドアの鍵の取り替えをダニエルに頼むが、ジーンはダニエルを信用しない。ジーンは情緒不安定で常に怒りを抱えている。ヒスパニック系のメイドのマリアにも厳しく当たる。ジーンが誤って階段から足を踏み外し、動けなくなった時、10年来の親友は助けてくれず、病院に連れて行ってくれたのはマリアだった。
職歴17年のベテラン白人警官ライアンと、パトカーの同乗者、若手白人警官ハンセン。
ライアンは折り紙付きのレイシストだが、家に帰れば、身体の不自由な父の介護を渾身的に担っている。父を社会保障の制度からはじき出す医療相談窓口の責任者、横柄な黒人女性に怒りを溜めている。
裕福な黒人TVディレクターのキャメロンと、妻の黒人クリスティン。
二人は取り締まりを口実にライアンから身体検査で辱めを受ける。クリスティンは自分が辱めを受けていた時、キャメロンが抵抗しなかったことにも怒りを募らせる。ライアンの人種差別的な態度に、二人は自尊心を深く傷つけられ、二人の関係も悪化する。
そのライアンは、事故を起こし今にも爆発しそうな車から、クリスティンを、身を挺して助け出す。
ロス市警の黒人刑事グラハムと、同僚で恋人のプエルトリコ系のリア。
グラハムはピーターの兄で、母との間に問題を抱えている。母親はピーターを溺愛しており、グラハムのことは眼中にない。
これらの人種も階層も異なる人々が善き面も悪しき面も持ちながら、不寛容と怒りに翻弄されている。侮辱され、自尊心を傷つけられた人々は、ある場合は極端な破壊的な行動にさえ赴く。玉突きの玉のようにそれぞれがクラッシュする。
過酷な現実を見せつける一方で、そしてハッピーエンドでは決してないのだが、見終わったあと心がほのぼのと温まるような、何かしら心の重荷が軽くなるような、不思議な気持ちだった。
ポール・ハギス監督はインタビューで、自分は「楽観的な皮肉屋」だと言い、「希望を抱くことができなければ、前に進むことなどできない」と言っている。
私が一番好きなエピソードは、ダニエルが娘のララに「透明のマント」を着せるところ。そして、このことが後の衝撃的な出来事に繋がり、そして、二転三転する。天国と地獄を味わうようだった。
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