オリバー・ストーン監督のドキュメンタリーもよかったが、ノーム・チョムスキーのインタビューには心を揺さぶられた。
1928年生まれの93歳。明晰で冷徹な分析と冷静な語り。
オリバー・ストーン監督はウクライナとロシアとアメリカの関係を映像で表現したが、チョムスキーは言葉と論理で、白日の下に晒している。アメリカの驚愕の実態が語られる。
「不作為と行動の両方によって、アメリカは今、最後のウクライナ人まで戦わせようとしている」という指摘に慄然とする。
渋谷円山町の現在地に移る前のユーロスペースで観た、20年前の「チョムスキー 9.11」(ジャン・ユンカーマン監督 2002年)を思い出した。その時、反骨の知識人、知の巨人と言われているのを知ったように思う。学生の頃は、「生成文法」で有名な言語学者という認識だった。
20年前、年のわりに明晰で、ラディカルで、そして穏やかだなと思ったような気がする。
それから20年。今回は、さすがに93歳、年を取ったなと思ったが、明晰で、ラディカルで、そして穏やかだなという印象は変わらなかった。
〈インタビューからの抜粋〉
どんな問題であっても、最も重要なことは、「それに対して何ができるか?」であって、「他の誰かに何ができるか?」ではないのです。
アメリカにおける最も代表的な戦争犯罪者の一人は、アフガニスタンとイラクへの侵攻を命じた人物です。戦争犯罪者として、それを超える人間はいません。
アメリカこそが、「ならず者国家」。
自国の文明のレベルを上げて、過去の被害者の立場に立って世界を見ることができるようにならなければいけない。(ジェームズ・ボールドウィンを思い出す。同じようなことを言っていた。もっとずっと否定的、悲観的に)
ウクライナの状況は悪くなるばかり。どうしたら停戦は可能になるのだろうか。
ロシアのウクライナ侵攻の次の日、2月25日に、ドミートリ―・ブィコフ(ロシアの作家、文芸批評家)がラジオで語った言葉から――
かつて世界に憧れられたような、私たちが目指していたロシアはもう跡形もなくなってしまった。
世界からみれば、今後ウクライナは神聖な存在となり、ウクライナのしたことならなにもかも批判できないような世論も生まれるだろう。
イデオロギー抜きで、ルサンチマンひとつで、ファシズムが成立する。
ファシズムとは、思想の生んだ現象でも、文化の生んだ現象でもなく、心理的現象、あるいは心の病気のような現象だったのだ。それは感情であり、その感情に身を委ねることを心地よく思う人がいる。
人間の本性として、巨悪に加担し、なにをやっても許されるという興奮状態に陥り、威力を見せつけたいという感情がある。人を酔わせる、怒りの感情だ。
私は皿洗いをするとき、いまできる限りのぶんだけ、世界に調和をもたらしている。私の詩で世界に調和をもたらせるとは信じていないが、皿を洗えばそのぶんだけ乱雑さが消えて調和が増える。(ブラート・オクジャワ 1924―97 吟遊詩人)