サイトアイコン つれづれに

映画「キャタピラー」

 

               

 

 若松孝二監督 2010年

 

 ダルトン・トランボ著『ジョニーは戦場へ行った』と、江戸川乱歩の短編小説『芋虫』をモチーフにしたオリジナルストーリーとある。

 

 1940年、黒川久蔵は徴兵され、中国大陸に赴く。4年後、両手足を失い、頭部に深い火傷を負い、話すことができず、耳は聴こえない状態で、首に勲章をかけられて、帰還する。新聞は英雄と褒めたたえ、村人は「軍神様」と崇める。

 身内の者たちは妻シゲ子に世話をすべて押し付ける。久蔵は鉛筆を口にくわえ、何とか書くことで意思を伝え、目で感情を訴える。
 シゲ子は「銃後の妻の鑑」として献身的に世話をした。久蔵はかつて暴力的だった。そして四肢を失った今もシゲ子に対して支配的にふるまう。

 久蔵は中国大陸で兵士たちと女を犯し、刺し殺し、焼き尽くしていた。その場面がフラッシュバックするようになり、次第に精神を苛まれる。そして、シゲ子の方もかつて自分を支配し、今も支配している夫への憎悪、村人たちへの憎悪を募らせる。

 

 反戦映画として、好きな映画だ。社会派、社会派してなくて、悪意があって。そして痛烈な大日本帝国批判、銃後の庶民に対する批判。この映画は、この時代に対する知識、教養がないとわかりにくいだろう。ある種、この時代に対する皮膚感覚がないと、深いところではわからないのではないかと思ったりもした。この映画を皮膚感覚で感じとれるのは、親が戦争を経験した世代までではないだろうか。
 精神を病んでいる明るい人がでてくる。戦争で精神を病んで帰ってきた人が生活圏の中にまだいた時代に、私は育った。

 寺島しのぶがよかった。悪意のあるような表情がよかった。夫をリヤカーに乗せ、軍服を着せ、勲章をかけて、「軍神様のお通り」だと連れまわるところ。その悪意は夫に対してであり、村人に対してであり、延いては大日本帝国に対してでもある。
 寺島しのぶは、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。

 

             

 

 

 

モバイルバージョンを終了