デヴィッド・クローネンバーグ監督
イギリス、カナダ、アメリカ 2007年
陰鬱なロンドンの闇の世界に息づくロシア・マフィアの人身売買、少女への売春強制。「イースタン・プロミス」とは、英国における東欧組織による人身売買契約のことを指す、という。
一人の少女がドラッグストアで大量の血を流して倒れる。少女は妊娠しており、赤ん坊は何とか助かるが、少女はどこの誰ともわからず死んでしまう。助産師アンナ(ナオミ・ワッツ)は流産した経験があり、赤ん坊を放っておけない。少女の身寄りを探そうと、少女が残したロシア語の日記を解読しようとする。それによって、ロシア・マフィアと関わりを持ってしまう。
マフィアの運転手、ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)の暗い影とかすかな温かさ。そして、得体の知れなさ。
久々に心にしみるような映画だった。心の底から満足した。
こういう映画が一番好きだと思う。「ドラゴンタトゥーの女」がここ10年ほどのベストワンだったが、こちらのほうが満足度が高いかも。余計な説明がないのがいい。男のニヒルさがいい。
ニコライ役のヴィゴ・モーテンセン、ウィキペディアの写真はイメージと違った。「深い暗さ」は作りこんだものだろうか。こういう男が好きなのだと思う。そして、マフィアのボスの息子キリル(ヴァンサン・カッセル)の弱さと、捨てきれない善良さにも惹かれる。見終わった後に残る余韻がよかった。悪の非情さが好きだが、人間性の善き面がやっぱり無条件に好きなのだと自分自身を見直した。
沢木耕太郎の映画評を読んで、ずっと見てみたいと思っていたが、何となく後回しにしていた。見る時期というのがあるのだろうか。今だったのだと思った。忙しく、活動的に日々を送っているとき見たら、いい映画だと思っても、ここまで入れ込んだかわからない。ニヒルさ、孤独さが、心に突き刺さるようで、浸食されるようで、私にとって、今、見るべき映画だったのだと思った。
素っ裸で闘う場面があるというので、どんな映像だろうと期待していたが、確かに迫力はあったが、ハンディがありすぎる普通の格闘シーンだった、と思った。二回目見た今、確かに沢木が言うようにこの映画の胆なのかもと思った。あのシーンが、この映画を最終的な甘さから救っているのかもしれない、と。