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映画「その土曜日、7時58分」

                     

 

シドニー・ルメット監督 アメリカ 2007年

 

 父と子の葛藤。兄弟の葛藤。単純で無邪気な弟。心の歪みで性格を破綻させた兄。(最初から最後まで説明あり。要注意)

 土曜日の朝、7時58分に事件は起きる。そこを起点に、時間が前後にさかのぼられる。視点を変えて、同じ場面が何度も現れる。
 郊外の、夫婦で営む宝石店で、たまたま店番に当たった妻(ナネット・ハンソン)が強盗に遭い、強盗を射殺し、自分も撃たれ、意識不明の重体に陥る。その朝、免許更新のテストを受けていた夫(チャールズ)は、終わって店に戻ると、警察が店を封鎖しており、驚愕する。

 娘と息子二人(アンディ、ハンク)が駆けつける。チャールズは、植物状態の妻を逝かせることを何とか受け入れる。射殺された犯人が遠いニューヨークの人間だという記事を新聞で見て、なぜ自分の店が狙われたのか、納得がいかないチャールズ。警察に尋ねるが、警察は相手にしない。チャールズは自分で犯人の片割れを探そうと決意する。

 強盗事件を計画したのは、兄のアンディ。兄は薬物中毒で、妻(ジーナ)との関係もうまくいっていない。不動産会社の経理担当重役だが、会社のお金に手をつけている。そこに財務監査が入ることになり、アンディは早急にお金が必要になる。
 そこで勝手知ったる実家の宝石店から金と宝石を奪う計画を立てる。保険に入っているから両親に負担はない。自分は2、3週間前に宝石店のあるモールに大手の会社を案内し、モール中の人に「りっぱになって」と握手攻めにあって、面がわれているからと、弟のハンクに実行犯役を持ちかける。
 ハンクは強盗に入る店が実家だとわかり、躊躇する。弟も離婚の慰謝料、養育費、出ていった家のローンと借金を抱えている。首が回らない状態を何とかしたいと、引き受ける。しかし、一人ではとても心許ない。知り合いのヤクザに近い男(ボビー)を相棒に雇う。

 ハンクはレンタカーを借り、朝早くボビーの家に行き、愛人(クリス)の前からボビーを引っ張っていく。ボビーは、ハンクは当てにならないので一人でやると言い、拳銃を見せる。ハンクは絶対撃つなと震えながら言う。
 そしてボビーは店に入り、待っているハンクの耳に銃声が3発聞こえ、ドアガラスと共にボビーが投げ出される。中でのボビーとナネットのやり取りは、すでに最初に描かれている。
 ハンクは仰天し、その場から逃げ出す。兄の事務所に電話する。失敗したと。

 事件の前の、チャールズとナネット、アンディ、ハンクの生活が描写される。
 頑固な父としっかり者の母。この映画の中で、兄弟の母としての姿は描かれていない。兄、弟にとっての母の思いが描かれているのみ。

 葬儀の様子。そして、警察署でたらい回しにされ、怒りが収まらないチャールズ。

 ハンクと、元妻と娘の関係。娘の学芸会での主役の演技に喝采するハンク。「ライオン・キング」を見に行く費用を出してくれとせがまれ、承諾するハンク。そんなハンクは兄の妻ジーナと木曜日ごとに逢瀬を重ねている。

 兄のアンディは、バイヤーの高級マンションで、高額のお金を払い、薬物摂取を重ねている。そこで朦朧としながら言う。

「不動産業界の会計は実にはっきりしてる。ページにある数字を全部足せばいい。毎日それできちんと帳尻が合う。総額はいつでもパーツの合計だ。明朗会計、絶対的な数字が出る。
 でも俺の人生はそうはならない。パーツが積み重ならず、バラバラだ。俺はパーツの合計にならない。一つ一つの結果が積み重ならないんだ。まとまらない」

 アンディは不全感に押しひしがれている。

 兄弟は撃たれたのが母だと知り、驚愕する。ハンクは耐えきれない。アンディは「オヤジなら、よかったのに」と言う。

 葬儀の後、実家の庭で父はアンディに、「理想の父親になれず、すまなかった」と謝る。
「気持ちを表現するのがへただし、愛情もうまく示してやれなかった。お前の求める父親になれなくて、すまなかった。私を超えてほしいという思いが──重荷になっただろう。今さら言ってもムダだろうが──お前を愛している。いろいろすまなかった。悪かった」と、父は顔を手で覆う。
 アンディは、「望む息子になれなかった」と言う。
「お前は頑張ったさ」
「それでも父さんはハンクの方が好きだろ、あんなろくでなしが」
「赤ん坊なんだ。親が必要だ」
「だけど本音は、見た目がかわいいからだろ?」
「長男は一番つらい思いをするもんだ」
「そう聞くけど」アンディは涙を拭う。
「家族の中でいつも俺だけ仲間外れだった。毛色が違う気がした。俺は実の息子か?」
 父はアンディの頬を平手打ちする。

 帰りの車の中、泣きながら運転するアンディ。
「とにかく──車止めたら」と妻のジーナ。
「オヤジが、俺の父親が」
「それがどうしたの」
「どうして、今さらずるいじゃないか! オヤジみたいになるのが怖かった。今までずっとだぞ!(All my life!  All my life!)」
「今さら謝られても水には流せない。そんな簡単にいくか。汚ねえぞ、卑怯だ! ホントに。今さら何だ、冗談じゃない」と、号泣するアンディ。

 妻は夫を理解できない。共感はない。具体的に、丁寧に説明してほしいと思っている。話してくれないことに怒ってすらいる。妻の心は離れている。アンディは、話す必要はないと言う。
 話さなければわからないと言う人間に、話したところで、理解することなどできない。この状況を感じることができ、アンディの心に共感できる人間にしか理解することはできないだろう。

 ジーナはハンクと浮気していたと告げ、実家に帰ると出ていく。帰るお金がないので、少しお金をくれと言う。アンディは持っているお金をすべて渡す。
 ハンクといるときのジーナは自信に満ちている。とても魅力的で、ハンクの方が夢中になっている。しかしアンディといるときのジーナは、自分は否定されているという思いが強く、自信がなく、たよりなげで、不安定で、子どものように見える。

 一方ハンクは、射殺されたボビーの愛人クリスの兄ディックから脅される。「妹は殺せと言ったが、慰謝料として、1000万ドル用意しろ」と言われる。

 アンディもハンクも切羽詰まった状況。

 父は犯人を捜して、闇で宝石を扱っている男のところに行く。
 男は、「あんたは若くて生意気だった。いい腕をしてた。昔の話だかな。俺を悪党と呼んで憎んでいた。この世は醜い世界だぜ。悪に染まる者が金をつかみ、他の者は食い物にされる」
「あんたは世の中を知らなかった。金のために人はどこまでやるか、これでわかるだろう」とアンディの名刺を渡す。
 アンディは、事件の前に宝石を捌く手立てを聞きに訪ねていて、名刺を置いていっていた。男はチャールズの息子だとすぐにわかったと言った。

 チャールズは、アンディを車で尾行しはじめる。

 アンディは会社から最後の金を持ち出し、旅行代理店で航空券だかを購入したらしい。そして、ハンクと二人で、薬物のバイヤーのところへ行き、アンディは来合わせていた客も含めて二人を殺し、金を奪う。ハンクは震えあがるが、アンディに付いていく。
 その金を持って、クリスとディックが待っているアパートへ行き、ハンクが金を渡す振りをして安心させ、アンディはディックを撃つ。
 クリスも撃とうとするが、ハンクは、
「アンディ、止めて。それは許さない。彼女を殺すなら僕を殺せ」
「悪くない、むしろいい考えだ。わかるだろ」
「何を?」
「知ってる」
「ごめん、僕が全部ダメにした。撃てよ、いいから引き金を引けよ。僕の望みだ、早く」
 ハンクのきれいな目。恐れ、おののき、不安、そういったものから解放されたような、清々しいような落ち着き。まっすぐ、そして愛情もこもった目でアンディを見つめる。アンディは銃口をハンクに向けるが、躊躇してなかなか引き金を引かない。そして引こうとした瞬間、後ろにいた、殺されかけたクリスに銃で撃たれる。
 クリスは、ハンクに「早く出て行って」と苛立ちながら言って、ハンクを逃がす。ハンクはあわてふためきながら、お金の一部をクリスに置いて、走って出て行く。

 深手を負ったアンディの病室。 
「父さん、母さんのことは事故だ。金が必要だった。銃を持っていくのは予定外だった。母さんも偶然店にいて、あんなことに」
「いいんだ、アンディ。もういいんだ」
「父さん」

 映画はここで終わらず、アンディは父親に殺される。衝撃だった。

 父が許した。すべてを受け入れたと、幸せな気持ちになったあとのラストの子殺し。父親は兄を許せなかった。兄は否定された。それが辛かった。

 

              

 

 

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