『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』
ジョイス・キャロル・オーツ著 栩木玲子訳 河出文庫 2018年
(内容の説明あり。要注意)
「暗黒のジュード」、悪意がありすぎて、邪悪すぎて、さすがに読むのが苦痛なほどだった。人を傷つけて喜ぶことができるという歪んだ自我の持ち主はどこにでもいるのかもしれない。しかしここまでくると、おぞましくなる。それでも一抹の悲哀を感じる。
ジュードは13歳。両親は離婚し、子どものことなどお構いなし。裕福で気難しい祖母に、2歳の頃から引き取られ、一緒に暮らしている。気まぐれで学業は振るわないが、知能は並外れている。
美しい金髪の下級生マリッサに、シングルマザーのリーアがやさしくキスしているところを目撃したとき、ジュードは許さないと思った。とうもろこしの乙女を生け贄に捧げるオニガラ・インディアンの展示を見て、ジュードは、マリッサをとうもろこしの乙女として生け贄に捧げようと計画する。ジュードの言いなりになる二人の同級生を巻きこんで実行に移され、マリッサはジュードが住む、ほとんどの部屋が使われていない古い豪邸に監禁される。
ジュードは自分を無視したコンピューターの指導員ミカールにも、「タダで済むと思うなよ」と静かに思い、マリッサを誘拐した性犯罪者に仕立てあげる。
リーアはメディアに翻弄され、ミカールもメディアに叩きのめされる。
「真実なんて、いくらでもでっち上げられるし、バカなやつらは何も考えずにそれを鵜呑みにする」とジュード自身も驚く。
世間の反応を最初は、ジュードと一緒に大笑いしていた二人の同級生は次第に恐くなってきて、ジュードから逃げ出す。終わりが近づいているのはわかっていた。ジュードは儀式を早める。
「思い知らせてやる! とうもろこしの乙女の母親もそう。絶対に許さない」とジュードは思う。虫ケラか何かを見るように、嫌悪感を隠そうともせずにじっと自分を見つめていた。
ジュードにもかすかな記憶があった。逃げだそうとしているマリッサの裸のガリガリの「デンブ」を見たとき、「ずっと昔、巻き毛の美しい女性が鼻歌まじりに歌を歌いながらジュードの小さなデンブに甘い香りのベビーパウダーをはたき、ゴムパンツを引き上げ、踊る子ネコの刺繍が入ったスモックをおろしてくれたことがあった」と。
ジュードはマリッサを自分と一緒に殺そうと思っていたが思いとどまる。「この子は生かしておくことにしよう。生きていつまでもあたしを崇められるように。この子にはあたしの印がつけてある。この子はあたしを決して忘れない」
ジュードは自分のまわりにガソリンで聖なる円を描き、「よーく見とけ、バカども」と思いながら火をつける。凄絶で、陰惨な死。
ジュードが死に、マリッサが助けだされて、事件は取りあえず解決する。
ミカールは記憶を共有できる相手を求める。「そうしないと、その記憶はまるで毒のように彼を蝕んでいく」から。そしてミカールとリーアとマリッサは寄りそいはじめる。
ミカールは、「すべてを知れば許せるというものではない。たとえすべてを知っても、それで胸が悪くなるだけということもある」と思い、リーアは、「どんな状況であれ私はあの子を許さない。あの子は『狂って』いたんじゃない。邪悪だったの。人を傷つけて喜んでいた」と思う。
マリッサには、〈「死の影の谷」にあっても私が汝を永遠に守ろう、アーメン〉というジュードの「印」が埋めこまれている。マリッサの前には過酷な生が横たわっている。
『名もなき毒』の原田(げんだ)いずみの邪悪さとはまた質の違う、考え抜かれた邪悪さ。神戸連続殺人事件の、14歳の少年をふと思い出した。

