Ⅰ 生きた彼らを最後に見たもの
リヴァー・ヴァレー農場の主人、ハーバート・ウィリアム・クラター、48歳。
妻、ボニー・フォックス、クラター氏の大学時代のクラスメートの妹で、信心深い、華奢な娘だった。3歳年下。
そして、4人の子ども。
長女、エヴェンナ。結婚し、10ヶ月の男の子の母。イリノイ州北部に居住。
次女、ベヴァリー。カンザス・シティーで看護婦になる勉強中。生物学の研究者と婚約。
長男、ケニヨン。15歳。
三女、ナンシー。14歳。
殺された4人の当日の行動の詳細な記載。友人、知人、取り巻く隣人たちの様子と、現場に近づいてくるディックとペリーの様子が交互に描写される。
ペリーは31歳。見果てぬ夢は、異国の海底に沈んだ船体からダイヤと真珠の船荷、山と積まれた黄金の箱を探し出すこと。
ディックは28歳で、二度結婚し、二度離婚し、3人の男の子の父親。
ペリーは上半身は並の人間以上の体格だが、バイクの事故で下半身は発育不良。ディックも自動車事故で顔の造作がゆがんでいる。二人は派手な入墨を腕や体に入れ、外見は似ていたが、内面はかけ離れていた。ペリーは詩人で夢想家、ディックは現実的で酷薄なものを抱えていた。ディックは刑務所での検査によると、知能指数がとても高かった。
ペリーにとって「ほんとうの、唯一の友」、刑務所で教誨師の書記をしていたウィリー・ジェイは、仮出所の別れの手紙に次のように書いた。
「きみは極端な感情をもった人であり、自分の欲望がどこにあるのかよくわかっていない飢えた人であり、自分の個性を、きびしい社会の律(おきて)という背景幕に投影しようともがく、深い欲求不満に悩まされている人である。きみは二つの上部構造─一つは自己表現、も一つは自己破壊─の間に宙づりになった半端な世界に生きている」
「きみの強さのうちにある欠陥とは、それぞれの場合にまったく釣り合いを失して爆発する感情的な反動である。なぜこのような不合理な憤りが、しあわせであったり満足したりしている他人を見たとき爆発するのだろうか? なぜ人々にたいする軽蔑の念が増大し、人々を傷つけようとする欲望が、起るのだろうか? そう、きみは彼らがバカ者だと思い、彼らのモラルや彼らの幸福がきみの欲求不満と敵意の源であるという理由で、彼らを軽蔑するのだ。~そのような男も侮蔑と憎悪を蓄積することには成功するかもしれないが、世の常の成功を蓄積することはない。というのも、彼は自分自身の敵であり、自分の達成したものを真の意味で楽しむことを妨げられるからである」
ウィリー・ジェイだけがペリーの価値と可能性を認識し、彼を自分自身が眺めるように──「例外的な」「世にも稀な」「芸術的な」人間として見てくれたのである。
ディックは、自分の計画の強力な相棒としてペリーをみていた。人を殺すことを何とも思わないと思われるペリーが、ディックの計画には必要だった。
ペリーからみたディックは、「とてもおもしろい人間だったし、抜け目がなく、現実主義者で、『物事をサッと裁断し』、彼の頭には迷いの雲など」なかった。自分と比べて、いかにも掛値なくタフで、不死身に、「まったく男性的に」見えた。
そして、事件は起こり、村の人々を混乱が支配する。